クーラーボックスを開けるとたくさんの烏賊が入っていた。よく釣れる所を見つけたと笑いながら次々と捌いていく夫の手元を見て私は目眩を覚えた。人間のように赤い血、人間のような目に見えるのは私だけなのかと。あの海に、あの場所に沈めたあの男とよく似た眼差しで烏賊が私を見つめている。
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]]>夫を刺した時からこの包丁で切るとどんな食材も悲鳴を上げる
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]]>僕の服や靴は僕が生まれる前に死んだ兄の物なのだが、もしかしたら僕の体と魂も兄のお下がりなのかもしれないねと話すと母はいつも僕から目を逸らす。
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]]>初めて見たのはマンションのエントランスでね、次の日はエレベーターホール、その次はエレベーター前にいてたの。
昨日私が帰ってきた時はお隣さんの部屋の前にいたわ。
今日?うん、今帰ってきたとこなんだけどね。
彼女、その部屋のドアに顔をめり込ませてたわ。
さっさと入ればいいのにね。
]]>
]]>波間に見え隠れする岩礁の上で言い争う二人の男。
何度も波を被りながらも殴り合っている。
あれは…
死んでからもああして喧嘩し続けてるんだ
隣にいた老人が煙草を燻らせながら言った。
遺産争いさ
バカ息子どもが
立ち上がった後ろ姿が溶けるように消えた。
落ちた吸い殻を風が転がす。
花の中には目を瞑った女性の顔
真珠の肌に漆黒の睫毛
目を開けてくれ
応えることなく花は幾度も枯れ落ちた
ある満月の夜、花が、瞼が開いた
月の光を湛えた瞳が輝く
花は花柄から離れるとふわりと宙に舞った
顔に花弁の、首筋に冷たい歯の感触
胸を腹を何かが熱く伝う
ああ 月が綺麗だ
]]>人形と一緒に紙が打ち付けられてる。
ふーん、メールアドレスか
奥へ進むとまた人形。
これはアカウント名か
本名がわからないんだろうな
さらに奥へと進む。
この木にするか
鞄から取り出した藁人形と『呪いたい奴一覧』のQRコードを印刷した紙を重ねた。
「一斉送信」
こーん
あんなところにもか
よくもまあ登ったもんだ
殆ど流れ落ちてるな
その下の枝のは昨日は無かったな
数え切れねぇぐらい今まで吊ってるからな
そいつらから出たもの全部吸ってきた木だ
いい樹液が採れると思うぜ?
ほいよっと お待たせ
落として割らねぇようにな
何が出てくるかわからんぞ?
弾くと澄んだ音がした。
(こんな音がするんだ)
連なる糸の上に指先を滑らせる。
「気に入ったかい?」
(ええ、素敵な音ね)
「それは悲鳴だよ」
(悲鳴?)
「ああ、あたしらが喰った人間のさ」
(早くこんな糸が出せるようになりたいな)
八つの目を輝かせながら少女は蜘蛛の巣を弾く。
「月が綺麗ですね」
貴女の笑顔を月に掲げる。
まだ生温かい血が滴り落ち、私の頬を伝う。
さてさて
この中に人でないものがどれだけ紛れ込んでいるのやら
花街に惹かれるのは人だけではないのですよ
そう言うと狐面の男は白い尾を揺らしながら人混みの中に溶けていった。
]]>昨日から降り出した雨はまだ止みそうにない。
いちばん丈夫な傘と長靴を選び家を出る。
道いっぱいの眼。
水溜りにぷかぷか浮かぶ眼。
排水溝に詰まった眼。
底の薄い靴だと踏んだ感触が足に残る。
それを楽しむ人もいるようだが。
涙雨が傘にぼうんぼうん当たる。
駅まで傘が保つか心配だ。
「このトンネルを抜けたら運転代わるね」
買ったばかりの最新の2シーター。
バックミラーに映る彼女が笑いながら話しかけてくる。
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