昔、一人の少女が大切にしていた猫のぬいぐるみがありました。黒くて丸くてあんころもちみたいだねと「あんこ」という名前をもらい、それは大切に遊んでもらっていました。
やがてあんこは母から子へ、子から孫へと受け継がれ百年目、ついに魂が宿ることとなりましたとさ。
ボクの記憶はここから始まります。
☁ ☁ ☁
付喪神となったボクでも、遊んでくれる主人がありましたし、ボンボンなお家で兄貴のプレステやチャンピオンとかあったので、いちおう ぬいぐるみとして幸せな日々を送っておりました。
しかし、この家には想像を絶する深い闇が隠されていたのです。そしてボクは束の間のハッピーライフを全て投げ出すことになります。
それは、じいさまから「絶対に女は近づいてはならない」と言われていた古い土蔵の中。ボクを抱いた主人は好奇心に駆られて扉を開いてしまったのです。
ボクにはすぐにわかりました。土蔵の奥深くでは突風のように禍々しい瘴気が渦巻いている。『ヤバい、アレはダメだ・・・。みんな殺される。』
ボクは決死の覚悟で主人の腕を飛び出すと、渦の中心にあるひとつの木箱の元へ。兎に角、この箱をできるだけ遠くへ持ち去らなければならない。「あんこぉ!」遠くから主人の声が響きます。箱を手に、ボクはサヨナラも言わず土蔵の窓を突き破り持てる限りの力で飛び出したのでした。
☁ ☁ ☁
どれほど彷徨ったでしょう。主人と過ごした日々が何度も眼前を走り抜けては「これでよかった」と呟く日々。きっとこの箱を捨てて主人の元に帰ったとしても、もうダメなんだろうな。なんとなくそう感じていました。
なんか箱から出てる黒いの付いちゃったし。
箱の力は強大で、長く留まると近くにいる女が無差別にとり殺されてしまいます。内臓をねじ切られ血反吐を吐きながら無残にとり殺されてしまうのです。
人間の女は好きです。糸が解れて腕が取れたときも、腑が飛び出したときも治してくれたし、何より彼女たちと過ごした日々は幸せでした。
「はぁ・・・CoDやりたい。」
☁ ☁ ☁
ある日、迷い込んだ山中でボクは不思議なものを見ました。たくさんの猫たちが、二本足で踊りの練習をしているのです。白い猫、黒い猫、ブチ模様の猫、毛のない猫など見た目は様々ですが、一様に歳をとった猫たちで一心不乱に二本足で踊っています。よく見れば、中には尻尾の先がふたつに分かれているものがいくらかいました。
「面白い娘だねぇ」
振り返るとひとりの老婆が笑みを浮かべて立っていました。
「ここは猫獄山。歳を重ねた猫が猫又になるための修行の場さ。それにしても付喪神の猫は初めてだよ。それにその箱、もう半分混じり合って繋がってるようだね。よく命があったもんだよ。」
ボクは箱に目をやり老婆に戻す。
「これコトリバコってやつでしょ?なんか持ってるうちに色々分かってきちゃって、気がついたらだいぶ力を吸収してたみたいだからもうペットみたいなもんだよ。」
そう言って足元の箱をコツンと蹴飛ばした。
刹那、箱から突風のように憎悪が溢れ出した。
『キィィサァ”ァアア”ァ”ァマ”ァァ”ァ”ァ”シィィ”ネ”ェェ”ェ”ェ”ェ”』
凄まじい呪詛が頭に直接突き刺さってくる。
憎悪の暴風に巻かれながら、ボクは老婆に尋ねた。
「ばあさま、ライター持ってない?この箱、よく燃えそうじゃね?てかなんか臭いし。」
そのとき、憎悪を押し殺したような、厳粛な声が聞こえた。
「友達からってことでどうでしょう?」
「おまえ、喋れんのかよ。」
こうしてボクはしばらく箱と一緒に猫獄山に身を置くことになりました。
「はぁ・・・刃牙どうなったの。」
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