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#呟怖
陽が暮れると街に音と光が溢れる。
提灯の灯り、芸妓が奏でる三味線、石畳を行く草履の音。さてさて
この中に人でないものがどれだけ紛れ込んでいるのやら
花街に惹かれるのは人だけではないのですよそう言うと狐面の男は白い尾を揺らしながら人混みの中に溶けていった。
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#呟怖
昨日から降り出した雨はまだ止みそうにない。
いちばん丈夫な傘と長靴を選び家を出る。道いっぱいの眼。
水溜りにぷかぷか浮かぶ眼。
排水溝に詰まった眼。底の薄い靴だと踏んだ感触が足に残る。
それを楽しむ人もいるようだが。涙雨が傘にぼうんぼうん当たる。
駅まで傘が保つか心配だ。 -
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#呟怖
柱時計が止まっている。
微かに聞こえたのは歯車が軋む音か。
ガラス扉を開けて中を見たが振り子は問題なさそうだ。
文字盤を開けると歯車に髪の毛が絡まっていた。
やはり向きを変えるべきか。
髪を切り除き振り子の上下を変え扉を閉めた。
ガラスの向こうで虚ろな顔が規則正しく揺れる。 -
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