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  • ふたば が更新を投稿 7年 5か月前

    遅筆なうえ寝落ちした私が悪いのですが、やぎゅうさんが正解した後ですけれど私なりの妄想を勝手ながら書かせて頂きます。
    2時くらいまでのQ&A条件は全てクリアしている筈です。
    あ、ちなみに長いです。

    店員が見送った男の顔はえらく寂しげであった。
    …この男、実は過去にウミガメを食べた事があったのだ、しかし長い長い彼の人生のうち、今食べたウミガメと昔食べたウミガメは味が違っていた。
    男の名は浦島太郎という。
    彼は昔話で語られる様に、かつて助けた亀に連れられ竜宮城へ行き、シャバへと戻り玉手箱を開けてしまった。
    そして、箱に閉じ込められた「時」が降りかかり、浦島太郎は翁の姿へと変わったのであるのだが……実はこの時、彼に齎される不運がもう一つあった。
    彼に幾十年分の空腹が襲い掛かったのである。
    浦島は余りの飢えに気が狂いそうになった、そして頭がふらつき強烈な目魔に襲われながらも、年老いた体で必死に食べる物を探した。
    すると彼の視界に砂浜に集まる子供達が映った、その中心には一匹のウミガメ。
    ウミガメは取り囲む少年達に棒で突つかれ苛められている。
    浦島はそちらへ走り出す。
    子供達は見知らぬ老人がこっちに駆け寄って来るのに気が付くと悲鳴をあげ、蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。老人は乾いたゾンビの様に痩せこけ、口元から泡立った涎を垂らして、明らかに目が逝っていたからだ。
    かくしてウミガメの周りにいた苛めっ子は一人として居なくなった。
    そしてウミガメは目の前に現れた老人に礼を言う。しかし、老人にはその言葉が届いていなかった。年老いた耳では聞き取れなかったのかもしれない、子供の悲鳴がまだ響いていたのかもしれない、もしくは理不尽に降りかかる不幸の連続で彼の頭はもう壊れてしまっているのかもしれない。
    老人は血走った双眼でウミガメを見遣ると甲羅を持ち上げひっくり返し、手頃な石でその柔らかい腹をぐしゃりと潰した。
    一瞬の出来事に何も理解できないウミガメは、自分の血肉を啜る年老いた男の姿を霞んでいく視界の中でただただ見つめるしかなかった。
    これが本当の地獄の始まりであった。
    ……ウミガメの肉は美味しかった、極限の空腹状態だった事も重なり、浦島太郎はその味を強く強く覚えたのだった。
    そして、彼は飢えを回避することに成功したが、あのウミガメのあまりの美味しさに他の食べ物に満足できなくなってしまった。
    肉を食べても魚を食べても彼は何も満たされない。
    一度など人間の子どもを食べた事さえあった。しかし、彼は口にする全てのものがまるで腐っているかのように感じてしまう。
    あちこちにガタが来た体は、そんな食べ物を受け入れられず吐き出してしまい、魔性の味を夢見たまま痩せ衰ろいて行く。
    いつまでも続く飢えに苦しむ浦島は、いつしか、かの味を追い求め旅にまで出掛ける様にまでなった。不幸な事にアテがあったのだ、竜宮城である。
    あの場所にさえ行けば、きっと自分も吐き出す事無くお腹いっぱい食べる事が出来る。
    老いてボケが来ている頭で、ただそれだけが彼を動かしていた。
    だがいじらしい事に、彼がウミガメに遭うことは何故かその後一切無いのだった。
    何年も何年も何年も男は彷徨い歩く、彼の老いた頭はどれ程こうしているか判らない、それはある意味幸運な事なのかもしれない。
    しかし、そんな彼の旅にも終わりが訪れた。
    彼は偶然立ち寄ったレストランでウミガメのスープがあるのを見つけたのだ。
    奇しくもそのレストランの名前は竜宮城であった。
    浦島太郎は飛び跳ねる様に喜んだ、やっとウミガメが食べられる、追い求めた味が食べられるんだ、そう思い、一目散に注文した。念願のウミガメスープを。
    彼はウェイトレスが運んできたスープを一口食べる。
    そして……えずいた。
    年老いた男は驚いた顔をした、ウミガメのスープが不味かったのだ。
    馬鹿な、そんな筈が無い、男はシェフを呼び「これは本当にウミガメのスープですか?」と尋ねた。
    料理人の「はい、間違いありません」という返事が聞こえ、男は酷く混乱した。
    ありえ無い、あの時食べたウミガメはこんな味じゃあ無かった。なら、あの時私は何を食べたんだ?
    浦島太郎は考える。あの時から更に長い時間を刻まれたその頭で。でも、解らない。
    老人はそれでも懸命に考えた。すると、その視界にこのお店のロゴが見えた。
    竜宮城の文字、そしてsince Muromatiという一文。
    男は文字を読む事が出来ない、それでもその文字を見た瞬間男は全てを理解した。
    そして、それ以上スープを飲むことなく店を出た。
    ……浦島の頭に昔の出来事がフラッシュバックした。昔カメを助けた事、竜宮城での浮世離れした生活の事、そして飢えに苦しんでウミガメを食べた時のこと……
    彼は全て理解した。
    あの時のウミガメがこの上なく美味しかったのはあれが竜宮の使いのカメであるからであり、その使いが居なくなった為に自分はもう竜宮城に行く事が出来ないことを、
    年老いボケが来ていた為に時間の感覚など無かったが、思っていた以上にありえない程自分は長生きをしている事もなんとなく理解していた。
    それも恐らくはあのウミガメを食べた事が理由なのだろう。
    カメは万年生きると云う、ましてや竜宮城の使いのカメだ。その肉を食べた自分の寿命も恐らく……
    何年、何十年、何百年と、望んでも手に入らないものを追い続けた浦島太郎が年老いた姿であったことは、幸運なのか不幸なのか、それは誰にも解らないだろう。
    だが、今まで自分の依り処であった夢が潰えてしまった彼にとって、此れからその老いた体のまま歩むであろう幾千年は間違いなく地獄だ。
    口にする食物も相変わらず吐いてしまうだろう。
    ……気が付けば、店から出て行った男は見慣れた砂浜にいた。海は静かに凪ぎ、陽はとうに暮れている。
    その浜に植えられた一本の松を見つけると、男は首吊り、自殺した。
    千切れた雲が月を覆い、寂しく暗い夜だった。
    ……首吊り死体はその状態のまま体液を垂れ流すという。それはウミガメが産卵時に偽りの涙を流すのと同じ、ただの体の仕組みである。
    閉じた両目から溢れる液体は、白く濁っていた。

    • ヤバい、恐ろしくよくできててビビりましたwww
      これは怪談作品として完全にイケてますよ・・・もうこれはこれでひとつのウミガメのスープでいいんじゃないのかwww

    • 数時間で設定縛りありでここまで練って仕上げるとはもしかして、なにか書いてますか?w

    • 恐ろしや((( ;゚Д゚)))